9月1日、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の舘暲(たちすすむ)特別招聘教授、南澤孝太准教授らの研究グループは、複数の人が裸眼で空中に3D映像を見たり、立体を描いたりすることができる3Dディスプレイ「HaptoMIRAGE(ハプトミラージュ)」を開発したことを発表した。
これまでも3D映像を裸眼で立体視できるディスプレイ技術はあったが、複数人で見る事はできず、直接触れることもできなかった。
研究グループが目指しているのは「さわれる情報環境」の実現であり、今回開発した技術についても、実現すべきとした目標を「裸眼で多視点の3D映像」、「現実空間への3D映像の重ね合わせ」、「複数人での3D映像の共有」、「広範囲からの3D映像の観察」としていた。
裸眼で空中に立体を見られる仕組み
この不思議な「HaptoMIRAGE」の原理はARIA(Active-Shuttered Real Image Autostereoscopy)と呼ばれる方法の応用だという。
「HaptoMIRAGE」はモーションキャプチャーセンサーでユーザーの視点位置を計測し、そのユーザーの視点に合わせた両眼視差映像を液晶ディスプレイに表示する。視点位置の計算は瞬時で行われるため、立体を上からのぞき込んだり、左右から見る位置をずらして立体を確認することもできる。
そしてその映像は、フレネルレンズを通して液晶ディスプレイより手前の空間に結像する。
ところがこのままでは、左右の目用に分けた映像が両目に見えてしまうため、さらに透明液晶ディスプレイ(アクティブシャッター)を配置することで光線の進行方向を決定し、左右それぞれの目に対応した映像が映るようにしてある。
また、液晶ディスプレイを複数設置することで、複数の人が同時に異なる方向から3D映像を見ることができるようにしてある。つまり、複数人が立体映像を共有できるのだ。
この技術によって、これまでの3Dディスプレイではできなかった、立体映像に直接触れたり、空間に3次元の絵を描いたりすることも可能になっている。
SFの世界が現実になる「さわれる情報環境」
「HaptoMIRAGE」は立体映像を裸眼で複数人が共有したり、立体を描いたりできるため、まずは美術館での展示やゲームへの応用が考えられているという。
また、デジタルサイネージへの利用も期待されており、いずれも実用化は5年以内を目指している。
しかし研究グループは既に次の目標に向かっている。この3D技術に、触覚提示機能を組み合わせ、「さわれる情報環境」を目指しているのだ。
例えば、映し出されている立体を指先でそこに立体が有ることを感じながら動かすことができる様になる。さらにはその立体を指先で加工することもできるようになる。
例えば立体の血管や臓器を映し出すことで、医師同士で確認し合いながら施術計画を立てたり、新製品のデザインを、打ち合わせをしながら変更してしまえるという、まるでSFの世界を現実にしようとしている。
3D映像技術が、次のフェーズに入ったと言えるだろう。