食の安全やフードマイレージ、地産池消など、農産物に対する消費者の見方は大きく変わりつつある。かつての経済効率最優先だった時代は、消費者からは見えないところで単一作物を大量生産し、それを大量輸送するために国家を挙げてインフラ整備がなされてきた。
しかし、農耕地は限りがあり、生産量にも限界がある。局地的に大量の水を必要とするのも問題だ。増え続ける人口と共に、大規模農業が地域に与える環境負荷は大きな社会問題となってきた。グローバル・アグリ・ビジネスが単一化や効率化を推し進める一方で、人々は自らが口にする作物に対して生産・流通過程の”可視化”を求め始めている。
そんな中、一つの流れとして注目され続けているのが家庭菜園だ。自宅の庭やベランダ、または市民農園などで小規模ながら作物を栽培し、収穫し、味わう。ハーブなど手入れが簡単で生命力の強い作物なら初心者でも決して難しくはない。しかし、大きな花や実をつけるようなものを育てるとなると、きっと試行錯誤を繰り返すことになるはずだ。
品種、土壌、肥料、気温、日照時間、降水量など、その土地や栽培条件によって最適なアドバイスが得られるとしたら、どんなに便利なことだろう・・・
各自の”農”をソーシャル化しよう
誰でも自由にアクセスでき、誰でも自由に参加できる、”家庭菜園に特化したWikipedia & SNS”とも言えるOpenFarmを提唱したのは、カリフォルニアに住むRory Aronson。機械工学を専門とする彼は、全自動家庭菜園ロボット”FarmBot”を開発する過程で大きなことに気が付いた。
「ロボットを作ることよりも、それぞれの品種や栽培環境に合った最適なデータを集めることのほうが難しい・・・」
ネット上には様々な品種や育成方法に関する情報が溢れているが、それらはどれも共有データを作成するには適していなかった。あまりにも大雑把に一般化され過ぎていたり、あまりにも条件が独特過ぎたり、そもそも使われている用語や表現方法が違い過ぎて理解するのに時間がかかったり。質問するにも、どこへ聞いていいのかすら分からない場合も多い。
しかしfacebookなどのSNSやブログなどを見ると、多くの人たちが自身の育てた植物や野菜などを、成功体験を美しい写真に添えてアップしていることに気づく。そして時には面白おかしく失敗談も。この”大事に育てたものを自慢したい”という人間が持つ基本的な欲求を、データ収集に使わない手はない。
経験の共有、精度の向上
多くの共通化された栽培データがOpenFarm内に集まることにより、より多くの品種や栽培条件による検索ができるようになるだろう。より多くのデータが集まれば、気象条件や土壌などの各数値を利用者の栽培環境により細かく合わせることができるようになり、より最適なアドバイスを受けることができるはずだ。
また、ユーザーはそれぞれの作物の管理記録としても使うことができ、収穫した後にはちょっとした”決算報告書”が仕上がるような格好だ。写真も多くアップでき、きっと同じ品種を栽培する人たちからコメントやアドバイスも受けられるはずだ。否が応でも次のシーズンへ向けて期待は高まるだろう。
家庭菜園の未来
多くの人々が持つ欲求を利用してデータを集め、分析し、各ユーザーへの最適化を図ることは、”農”の分野では遅れてきた。特に家庭菜園はこれまで趣味として扱われ、収穫の多さや効率はあまり考えられてこなかったと言える。
しかし、OpenFarmのデータベースがより重層的なものになりソーシャル化されていけば、どんな条件下でも効果的により多くの収穫を得ることができるようになるだろう。それが実現する頃には、もう家庭菜園は”趣味”の域を超えた新たな可能性を持つかもしれない。