ファッションブランド「junhashimoto(ジュンハシモト)」を展開するFASH internationalが、クラウドファンディングの仕組みを用いた通販・ECサイト「the SHOWCASE」がオープンした。
特長をひとことで言えば、「完全受注生産型」のECサイトであり、ブランド側がプロジェクトとしてオリジナルアイテムを提案し、それを気に入ったユーザーだけがオーダーできる「物品購入型」のクラウドファンディングサイトでもあることだろう。
この「the SHOWCASE」は、目新しいサービスとしてというよりもむしろ、アパレルECのひとつの方向性を示すモデルとして非常に興味深い。
サービスの仕組みは、特定のブランドのオリジナル商品の購入を希望する顧客をサイト上で募り、期限内に一定数に達したら製造、販売するようになっている。プロジェクトが達成した段階でメーカーに発注するフローのため、必要な材料だけを注文すればよく、余分に資材を抱える必要がなくなる。
また、製品の購入予約が目標件数に達した段階で決済されるため、到達しなかった場合はユーザーに料金が請求されない。つまり、運営側には以下のようなメリットがある。
・受注生産のため、在庫を抱えなくていい
・無駄なコストがカットされ、価格に還元できる
・生産前に入金があるため、キャッシュフローが安定する
一方、ユーザー側のメリットとしては、以下の3点となる。
・今まで手が届かなかったブランドが、安い価格で購入できる
・市場に流通しない、もしくは出回る前の限定商品が手に入る
・試着できない分、返品交換のオプションがある
スタートしたばかりだからか、プロジェクトはクラウドファンディングというよりも、期間内に一定数以上の共同購入者を集めるグルーポン、ポンパレなどの共同購入型クーポンサイトのような「フラッシュマーケティング」に近いが、襟の形を選んだり、ボタンを付けたりとカスタマイズが可能なアイテムもあり、オリジナリティを求めることができる。
デメリットとしては、個人的に好きなブランドだったこともあり早速登録して購入を検討したが、「生産開始後3ヶ月程度」という納期が挙げられる。運営サイドは当然考えていると思うが、単純に秋口に着たい服が真冬に届くというのはいただけない。
また、トレンドを取り入れるという観点でも、秋冬シーズンのパリコレクションは2月から3月にかけて開催されるので、本来春先には募集したいところだ。今後のプロジェクトに注目したいと思う。
いずれにせよ、「junhashimoto(ジュンハシモト)」のように、すでにある程度知られていて固定ファンのいるドメスティックブランドが、EC戦略の一環として同様のモデルを採用するケースは今後増えてくるだろう。
どこまで「共創」することができるかが成長のカギ
少し視点を変えて、クラウドファンディング要素を持つサービスとしての可能性について考えたい。
国内の主要なクラウドファンディングサービスのほとんどは「物品購入型」を採用しており、目標金額に達成すればプロジェクトが実行され、支援のリターンとして商品やサービスが手に入る仕組みになっている。その点では、「the SHOWCASE」のような完全受注生産型のECサイトと近しいと言える。
何が違うかと言えば、共感や支援者のコミットメントを獲得することを第一条件にしていることである。ほとんどの場合が無名の、夢や志を持つ個人やスタートアップがプロジェクトオーナーであるため必然的にそうなるわけだが、その分それぞれの「顔」が見え、思いやストーリーが伝わりやすく、購入意欲を喚起することができる。
「the SHOWCASE」はコスト構造を見直した戦略的なECサイトであり、商品力にも自信が持てる。だが、好きなブランドの限定商品を安く買えるというメリットだけでは、既存ファンの囲い込みはできても、新しいファン層を開拓しスケールさせることは難しいだろう。
つまり、サステナブルな事業モデルにするためには、クラウドファンディングの「仕組み」部分ではなく、共感を生み出す「プロジェクト」の部分にフォーカスする必要がある。
このことを示唆する事例として、最近注目を集めるスタートアップで、ファクトリーブランド専門のECサイトを運営する「Factelier(ファクトリエ)」を紹介しよう。
ファクトリエは、世界ブランドを手掛ける工場と提携し、メーカー、商社、卸といった中間業者を省略することで、高品質かつ低価格を実現しているが、元々はクラウドファンディングサービスを用い、自社のプロモーションをしながら初期ロットを受注販売の形で提供するというプロジェクトで、グロースハックに成功した。
高品質な商品が安価に手に入るのは魅力的である。だが、それだけでは人は動かない。ましてや、1万円以上するシャツである。気軽に購入できるものではない。ではなぜ、プロジェクトは成功したのか。
「消えゆくメイドインジャパンを復活させたい」という思いの強さと問題意識の高さに共感したからこそ、成功したのである。つまり、画期的なビジネススキーム自体が目的なのではなく、夢を実現するための手段であることが人の心を動かしたわけだ。
冒頭で「アパレルECのひとつの方向性を示すモデル」と書いた理由がここにある。
完全受注生産型のECサイトという合理性に、どんなノイズが加えられるのか。ユーザーの感情がどのように刺激されるのか。既存のブランドイメージに頼らず、それを破壊し、再構築することができるのか。こういった要素が「クラウドファンディング」に期待されているのではないだろうか。
大切なのは、ブランドや商品を「共創」することで、ユーザーを動員すること。そこにストーリーがあるから、差別化され、人が集まり、やがてファンとなる。
今後「共創」は、アパレルEC業界にとって重要なキーワードとなるだろう。