「音楽をやる」といっても、そのありかたは様々だ。ソロ楽器でメロディーを演奏したり、仲間と合奏をしたり、あるいは作曲をしたり、編曲をしたり。なかなかそれらを同時にはできないが、たとえばエレクトーンやシンセサイザーを使えば、ひとつのデバイスでそういったことも可能だといえるかもしれない。
ただし、エレクトーンやシンセサイザーに使われる「鍵盤」の存在はひとつの大きなハードルであり、演奏に訓練を要求する原因だ。
ところが、その壁を乗り越えるデバイスを、フランスの小さなメーカーが開発した。基本的には、様々な音を作るシンセサイザーとそれを演奏する楽器であり、記録、再生することができるシーケンサーを融合させた電子デバイスだと思っていい。
開発したのは数学者でミュージシャンでもある青年だ。du-touch(ドゥータッチ)と名づけられたこのデバイスは、左右に分かれたキーボードを持ち、いくつかのボタン、スイッチ類と、上部に小さなディスプレイを持つ。
設定や操作でさまざまな表現が可能
ボタン操作により、各キーからは様々な楽器、音色の音を出すことができる。
その設定は上部のディスプレイで確認できる。各キーには圧力センサーが内蔵されているので、押す強さによって音の強弱をつけることができるほか、表面をなでることや本体を傾けることで音程を変えることができるなど、さまざまな表現が可能だ。
また、シーケンサーも内蔵しているので、ドラムのパートを演奏して記録し、重ねてベースのパートを演奏して記録し、それを再生しつつメロディを演奏することができる。
どこにいてもすぐにその場で曲を作って演奏することができるのだ。下の動画で各種の機能を紹介しているので、ご覧になっていただきたい。
独自のキー配置が真骨頂だ
実際のところ、オモチャではなく、けっこう本格的な楽器/シンセサイザー/シーケンサーというコンセプトのようで、機能は非常に幅広く、拡張性も高い。とてもここでそのすべては紹介できないが、特にユニークなところを紹介したい。
それは、演奏に使うさいのキーボードの機能だ。このキーボードは「ドレミファソラシド」が順番に並んでいるのではない。楽譜の5線でいうところの線上の音つまり「ド・ミ・ソ・シ」は左手側のキーボードに並び、線間の音つまり「レ・ファ・ラ・ド」は右手側に並ぶ。さらに、「♯」がついた音は内側に、「♭」がついた音は外側に配置されている。
それによって、コードは指の形を幾何学的に覚えればいい。コードは片手で演奏でき、音楽理論を知らなくても直感的に理解できる。また、簡単に即興演奏したいときには、そのときに使えるキーだけを光らせることができるので、光ったキーだけを鳴らして即興ができる。
シンセサイザー/シーケンサーとしては、それほど目新しく感じないかもしれないが、このキーボードの配置はユニークだ。さすが数学者のミュージシャンというところだろう。アコースティック楽器の制約から完全に自由になって、電子楽器ならではの特性を生かし、感覚的にコードやメロディを演奏できるようにした。
音楽理論がわからなくても曲が作れるというだけでなく、音楽(特にハーモニー)の構造を理解するのにもいいだろう。いや、むしろ「音楽を楽しむ」というコンセプトのデバイスとしては最高かもしれない。価格が990ユーロと、ちょっとお高いところが難点だけど。
*出典:Dualo