バリ島の犬事情
バリ島では街中・田舎を問わず多くの犬の姿を目にする。飼い犬と野犬の区別は無い。バリ人も”犬を飼っている”という意識は無く、”犬が家の周りに居ついている”といった感じだ。扱いも、同じように放し飼いされている鶏と同程度か、それ以下といったところ。
例外としては、子犬が子供たちに可愛がられることぐらいだろうか。だが、犬が成長するにつれて愛着は薄れ、最後は野犬化する。そんな中にも”特別”に大切に育てられる犬もいる。
生贄用や食用とされる犬だ。
この島の名前”バリ”には、サンスクリット語で”お供え・生贄”という意味があるという。島の女たちはチャナンと呼ばれる小さな籠に入ったお供えを、毎日たくさん作り、至る所に置いて回る。
大規模な儀式も数多く行われ、そこでは多くの動物たちが生贄として神々に捧げられる。鶏、アヒル、豚、ヤギ、猿・・・そして、犬。
また、犬食文化も色濃く島に残っている。小さな島であるバリには古来より大型野生動物が少なく、犬は貴重なタンパク源として食されてきた。鶏肉や豚肉が手に入りやすくなったとはいえ、重要な祝い事などの席では現在も犬肉を使う地域も多い。
男性のスタミナ食としても根強い人気があり、ローカルエリアでは”RW”という看板が目印の犬料理店も多数存在する。
バリの犬へ愛情を
日々のお供えであるチャナンは、家や商店の前の道路脇や、三叉路や十字路の真ん中も置かれる。この島の犬たちは、それを漁って生きてきた。
しかし経済発展と観光地化が進むバリ島の狭い道路には、膨大な自動車やバイクで溢れかえっている。犬が轢かれることなど日常茶飯事で、轢かれた犬もそのまま放置される。運が良ければ片足を引きずりながら生きながらえることもできるが、多くの犬はその場か側溝あたりに落ちて息絶える。
また、犬肉の闇業者が毒入りの餌をあちこちにばら撒き、死んだ犬たちをRW食堂に売り捌く。
画家のLinda Bullerは、そんな光景が許せなかった。
リンダはバリ島に住む多くのアーティスト同様、この島の美しさに魅了されオーストラリアからやってきた。芸術の街ウブドに居を構え創作活動を始めるが、すぐにこの島における犬の姿に心を痛めることとなる。
「ケガや病気でみすぼらしい姿になり、いつも虚ろな目をしているバリの犬たちは、愛情というものを知らない・・・」
彼女は自身の生活ができる最低限のお金以外を、全て犬の保護へと使い始めた。道端で死にかけている犬を見つけては家に運んで手当を施す。リハビリを乗り越え元気になった犬たちは、知人などに引き合わせた。それを繰り返すうちに彼女の噂は次第にウブド中に広がり、支援者も現れ始める。
この活動はBARC(Bali dog Adoption and Rehabilitation Centre)と名付けられた。
また動物愛護の啓蒙活動にも力を注ぎ、地元の小学生たちへ授業を行っている。
グリーンスクールの4年生のクラスはこの活動への参加を決め、野犬保護や資金集めに協力。学校内でチャリティーバザールを開催し、7万ドルもの売り上げを寄付した。
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