世界で出会う旅行者たちの手には、必ずと言っていいほどCanonかNikonの黒いカメラがある。カメラの世界シェアは、この2社の他SONYやオリンパス、ペンタックスなど日本メーカーによって独占されていると言っても過言ではない。
世界において”カメラ”と言えば、日本。しかし”写真家”と言われて真っ先に日本人の名を挙げる人はいない。
そんな”ハード高ソフト低”の状態を打破するために創設されたのが、日経ナショナルジオグラフィック写真賞だ。
*画像出典:日経ナショナルジオグラフィック写真賞 2013年グランプリ「輝く光景」宮武健仁
人々をワクワクさせよう
「世界を夢中にさせる写真家を日本から。」
そう謳われたこの写真コンテストは2012年に創設された。その選考基準も明確だ。
世界基準で通用する作品を探している一方、子どもたちでも感じ取れる作品の強きも同時に求めています。世界中の読者を夢中にさせてきたナショナルジオグラフイックと同様に、自然や人聞のありのままを写した美しし鷲きと発見に満ちて、ドキドキ、ワクワクするようなドキュメンタリー写真であることを、選考の基準とします。(原文ママ)
“子どもたちでも感じ取れる”という表現は、そのまま”異文化の人たちでも感じ取れる”と言い換えることができるだろう。日本人にしか伝わらない”情感”ではなく、世界中のあらゆる人が”共感”できる写真を。撮る者も選ぶ者もそれを意識し、入賞者たちは同誌で活躍の場を与えられる。
そもそもこのコンテストは2012年以前「国際写真コンテスト」という名前で開催されていた。これは本家ナショナルジオグラフィックが開催している世界的な写真コンテストの”国内予選”という位置付けであった。
しかし、国内機関が日本代表を選考し世界へ送り出す、というスタイルはもう時代遅れだ。世界で戦える者は、直接世界へと向かう。写真の世界には、プロとアマの垣根がほとんど無く、フェアであるがシビアな世界。世界的なコンテストであるナショナルジオグラフィック写真コンテストも、プロとアマが同じ土俵で争う。
写真の魅力とは、撮る人の身分や国籍など一切関係ないところにある。
日本と世界をつなぐ役割
かつては本家のナショナルジオグラフィック写真コンテストにおいて、全くと言っていいほど存在感の無かった日本の写真家。しかし、国内予選大会がこの日経ナショナルジオグラフィック写真賞と名前も大会意義も衣替えした結果、大きな変化が見られているようだ。
何万作品も応募がある本家コンテストでは、大会期間中に編集部スタッフが”編集者お勧めの写真”という注目写真を選んだ人気コーナーがあり、毎週ウェブ版で公開される。野球で言えば”週刊MVP”みたいなものだろうか。当然コンテストの入賞作品はこの写真から選ばれることが多い。
それまではこの”週刊MVP”にも日本人の名前は挙がることは滅多に無かったのだが、2014年の期間中には多くの日本人写真家の作品が選ばれた。これは、以前の状況からすると大きな変化だ。
国内では新しい才能の発掘と育成に重点を置き、世界へは個々の力と意志によって挑戦する。本家と日本版の二つの写真コンテストの関係性と位置付けが確立したことにより、より明確な方向性と推進力が生み出された。
日本の写真家が大きく注目され、多くの日本人フォトジャーナリストが世界で活躍できるようになる日も近いかもしれない。