最近はAEDが備え付けられている施設も増えた。AEDとは心停止(正確には心臓の筋肉が細かく痙攣して、ちゃんと拍動しなくなっている状態)の患者に電気ショックを与えて、心臓が正常な拍動をするようにうながす装置だ。救急車の到着を待たずに、いち早く使用することで、心停止のひとが助かる可能性が大幅に上がるという。
とはいえ、つねにAEDが近くあるとはかぎらない。また、近くのどの施設に設置されているかわからないケースだってあるだろう。そんなとき、AED自らが現場にかけつけるというアイディアをオランダのデルフト工科大学の大学院生が考えた。ドローン(無人機)にAEDを搭載させたのだ。
心停止の患者が出たという連絡を受けたAED搭載ドローンは、連絡に使われた携帯電話の位置情報をもとに、GPSを使って自動的にその場所に到着する。ドローンは自重4kg。そして約4kgのものを運んで時速100km/h前後で飛行することができる。
実現すれば生存率が大幅に上がる可能性も
心停止した患者に対してのAEDの使用は一刻を争う。救急車で人間が到着するよりも、ドローンを飛ばしたほうが早いだろう。現在EUでは、年間約80万人が心停止を起こしていて、そのうちわずか8%のひとしか助かっていないが、この救急ドローンのネットワークが構築されれば、その生存率は80%にまで上がる可能性があるという。
また、この救急ドローンはカメラを搭載している。現場の映像を救急センターに送り、音声通信を使って、救急センターのスタッフがその場にいるひとに指示を出すことも可能にする。現在、訓練を受けていない一般のひとでは、わずか20%しかAEDをうまく使うことができていないそうだが、その数字を90%くらいにまで上げることができるかもしれないという。
現時点では、ドローンを自動飛行させる法的な問題や、ドローンの障害物回避機能など、まだ解決しなくてはいけない問題はある。とはいえ、このアイディアは荒唐無稽なものではなく、近い将来に実現しそうなものだ。この救急ドローンのおかげで、心臓疾患で命を落とすひとが減るかもしれない。
下ではこの救急ドローンのイメージ動画を見ることができる。
蛇足だが、私はAEDを取材したことがあるので、ひとつ書いておきたい。もし心停止を起こしていそうなひとがいたら、あなたがどんな素人でも、ためらわずAEDを使ってみてほしい。起動すれば、使いかたはシンプルだし、AEDが自ら説明してくれる。そのひとに本当にAEDを使う必要があるかどうかもAED本体が判断してくれる。
使ってみれば、それでひとが助かるかもしれない。助からなくてもあなたのせいではない。救急隊員のひといわく、むしろ「もし助かればめっけもの」なのだそうだ。